矢を番え、弓を掲げて見上げた上空は、余程風が強いのだろう。冴え冴えと乾いた冬の夜空に、チカチカと星が瞬く。月は細く低く、遠くの山あいに引っかかって笑っていた。
キリキリと肺を刺すような空気の鋭さは、寒さのためだけではない。数十メートルの彼方で薙刀を振るう姉の気迫に、わたし自身の緊張と、いま消し去られようとしている物の怪が発する警戒と、敵意。それらが空気に凍てつくような棘を含ませて、わたしの胸を内から突き破ろうとしている。
「――、祓い、給え」
どうにか絞り出した声は、自分ですら聞き取ることができないほどかすかだ。
「清め、給え」
静かに弓を引き、番えた矢の幅いっぱいに弓を押し込めば、鏃の先で薙刀が弧を描いて旋回する。刃が月明かりに青白く光り、照らし出された氷のように輝いていた。
「神ながら守り給い、」
まだ。わたしが射込む矢の先に、姉が物の怪を導くまで、あとすこし。
震えの一つもない弓と弦は、もはや意識に上らない。ただ、鏃の先に揺れる枯れススキと姉の足音だけに神経を巡らせる。枯れた草葉が夜露を吸った、軽さの失せた音が心臓と同期して。
「――幸え給え」
言うと同時に放った矢が、綿をなくしたススキの穂を抜け、姉がなびかせた袖をかすめ、物の怪に吸い込まれていくまで。わたしの視界は、まるで鏃に目をつけて飛ばしたかのようだった。
